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菜話§四月大歌舞伎~於染久松色読販と神田祭~ [歌舞伎]

すっかり桜も散って、今年の我が家周辺は花水木(ハナミズキ)が期待外れの咲き具合。という4月下旬が始まったところで歌舞伎座に行ってきた。四月大歌舞伎夜の部である。

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お目当ては2018年、2021年に続いて三度目となる仁左衛門&玉三郎コンビによる『於染久松色読販』と『神田祭』の二本立て。

もう、何も言うことはなく、仁左玉が持てる魅力を振り撒き尽くした贅沢な時間だった。とにかく仁左衛門の“悪”の凄みは比類なく、それが玉三郎と共演することで魅力が二倍にも三倍にも膨らんでいく。脇を固めた橘太郎の久作、錦之助の清兵衛、彦三郎の太郎七などなど、手堅くまとまっていた。

そして“お口直し”に置かれた『神田祭』の贅沢なこと。二人が“じゃらつく”様子は、まさに恋仲の二人の濃密さで、ほぼ満員の客席の喜ぶまいことか。

1970年に始まった孝玉から仁左玉へと、半世紀以上続いた稀有なコンビだがもう終わりは遠くないところにあるだろう。せいぜい、舞台に登場する時を待ち構えて、せっせと通わなくてはと思う。

最後に『四季』が、春“紙雛”~夏“魂まつり”~秋“砧”冬~“木枯”と踊られたが、相変わらず舞踊は苦手なのと、さすがに冗長な踊りばかりで、帰ってもよかったかと思っていたら、最後に冬の木枯の冒頭、群舞の中の一人がバレエの“トゥール・アン・レール”で三回転して見せたのでびっくりした……心の準備ができていなかったのだ。

まったく予想などしているはずもない唐突なことだったが、それにしても、名題下の役者の中にバレエの経験者でもいるのか……まさか、たった一回の回転のためにエキストラを呼んだとも思えないし。

夜の部は19時半と珍しくも早い時間の終演。ちょっと軽いと思わないでもなかったが、それでも帰宅は21時過ぎだった。

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跡話§三月大歌舞伎~恐るべし仁左衛門~ [歌舞伎]

日曜日に三月大歌舞伎昼の部を観てきた。それに先立つ3月14日には松嶋屋片岡仁左衛門が80歳の誕生日を迎えていたのだった……80歳である。

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そんな仁左衛門が今月務めたのが『元禄忠臣蔵~御浜御殿綱豊卿~』の綱豊である。しかも真山青果――我が家では真山フルーツと呼んでみたり――の台詞劇なのだ。そんなわけで真山の歌舞伎は苦手なので敬遠しているが、これは観ずばならないと歌舞伎座へ。

果たして、予想した通りの台詞劇……それも、長大な台詞が1時間半の中にぎっしりと詰め込まれていて、それを仁左衛門が淀みなく口にし、演技をしていく。そこには80歳の老いなど微塵も見えず、綱豊(後の六代将軍家宣)の当時の実年齢である40歳の壮年の姿があった。

綱豊に対峙する赤穂浪士富森助右衛門(幸四郎)との息詰まる問答こそ青果が意図した頂点であるのは言うを待たない。幸四郎もまた過不足なく仁左衛門と向き合っていたのである。

とはいえ、さすがに疲れた。こういうストレートプレイを観続ける根気が、いよいよ枯渇しつつあるのだろう。

昼の部は一本目『菅原伝授手習鑑~寺子屋~』が、菊之助の松王丸、愛之助の源蔵、新悟の戸浪、梅枝の千代、他。菊之助初役の松王丸は“ニン”にあるかどうかと思っていたが、これが菊之助?というような口跡に驚かされたが、うーん……意気込みは買うけれど、松王の貫禄は不足していた、ちなみに六代目は松王丸を務めているが、父菊五郎(七代目)は、千代しか務めてはいない。個人的には梅枝の千代がよかった。

二本目は四世中村雀右衛門十三回忌追善狂言『傾城道成寺』で、安珍清姫を元にした舞踊劇。

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無話§歌舞伎の客席~通さん場~ [歌舞伎]

歌舞伎を観始めて何に驚いたかというと、幕が開いても遅れた客がかまわず入場してくることだった。

クラシックのコンサートだったら考えられないことで、おおらかと言うならおおらかだが、きちんと開演前に着いて座っている客の前を自分の席に入るとは何という狼藉であろうかと、今でも思っている。

昔の歌舞伎中継の映像を見ていると、たとえば『勧進帳』で富樫が舞台に登場していても、ぞろそろと客が入ってくる様子を呆然と眺めることになるのだ。

さすがに『仮名手本忠臣蔵』の判官切腹の場は“通さん場”と言って、客が途中から入場することを禁止しているが、そんなことが珍しがられるわけで個人的には、そうした出入り勝手御免のような悪癖はなくすべきだと考えているのだが。

結局は、だらだらと変わらないままだが、自分が座っている前を“とりあえず”は、申し訳なさそうに殊勝な顔をして通っていくが、歌舞伎座の客席は前が詰まっているので、場合によっては立ち上がらなくてはならず、そして後ろのお客さんまでが迷惑を被ることになってしまう。

もういい加減に、上演中の入場は禁止にして、最低限せめては舞台転換時に限って入場させるとか、そうした手立てを講じてくれないと、時間を守って着席している人間ばかりが馬鹿を見るようではないか。

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偲話§猿若祭二月大歌舞伎~勘九郎~夜の部 [歌舞伎]

今月は三連休が2回あって、最初の三連休最終日に夜の部を観てきた。猿若祭と銘打った十八世中村勘三郎十三回忌追善興行である。

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勘九郎長男勘太郎の猿若で猿若江戸の初櫓から、芝翫の『義経千本桜~すし屋』と続き、最後が勘九郎が親獅子、次男長三郎の子獅子で『連獅子』である。

↓今月は中村座の定式幕が使われる
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『猿若江戸の初櫓』は勘九郎が務めていた猿若を勘太郎が踊ってみせたが、さすがに荷が勝ち過ぎていたと感じた。七之助が出雲の阿国で好サポートしてはいたが、そこはやはり“子ども”と感じてしまう……指先まで神経を行き届かせて丁寧に踊ってはいたけれど。

さて、芝翫がいがみの権太を務めた『義経千本桜~すし屋』であるが、芝翫に花がない。脇はよく締まっていた……歌六の弥左衛門、時蔵の弥助(維盛)に息子の梅枝がお里、新悟の若葉の内侍、又五郎の平三景時、梅花の弥左衛門女房お米と揃っていたのに、どことなく主役がその中に埋もれてしまったと見えて、何とももったいない舞台。

最後の『連獅子』は、10歳9か月の長三郎の子獅子。兄の勘太郎が子獅子を踊ったのは9歳11か月だったが、勘太郎のほうが性格的に丁寧な踊り方をしていた記憶。長三郎はいささか大雑把……いつもは子獅子に視線を集中するのだが、この日は勘九郎の親獅子を見ていた時間が長かったようだ。

何とも研ぎ澄まされて切れっ切れの親獅子を堪能することになった。いずれ三人連獅子が踊られることになるのは間違いないが、それはもう少し先か。

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元話§壽初春大歌舞伎夜の部~寿曽我~ [歌舞伎]

松も取れ、正月気分などすっかり消え失せた歌舞伎座夜の部に行ってきた。

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舞踊『鶴亀』に始まって、休憩を3回挟んで『寿曽我対面』から『息子』そして『京鹿子娘道成寺』と一時間足らずの演目が並んだ、気楽な舞台。

『鶴亀』は福助、松緑親子、幸四郎親子の正月らしくたゆたうような一幕。

正月らしい演目『寿曽我対面』は扇雀の十郎、芝翫の五郎、梅玉の祐経、彌十郎の朝比奈、他。扇雀の存在感が薄く、もう少し柔らかみもほしかった。芝翫は悪くはないと感じたが、声は張り上げ過ぎていなかったか。そして、相変わらず梶原親子のパンクっぷりよ。

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『息子』を観るのは2005年以来。その時も幸四郎が息子の金次郎を務める。白鸚の火の番、染五郎の捕吏を祖父から孫三代、三人だけの舞台。歌舞伎の舞台においては、喉を詰めるような白鸚の口跡は好きではない。だが、今回のような“ストレートプレイ”的な舞台の表現には合っているような気がするのだが。

とはいえ、前回観た時も思ったが、心理劇が正月の舞台にふさわしいのかと言うと……。

最後に『京鹿子娘道成寺』は、右近の花子。前半は殊勝に踊っていたように思われたが、後半に進んでいくにしたがって、あざとさが目に付いてきたと感じられた。品よく踊ってほしい踊りではないか。体育会的に見えるようではいけないのである。

終演は19時半過ぎで、21時前に帰宅。

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余話§新春浅草歌舞伎第二部~歌昇~ [歌舞伎]

平日にもかかわらず、雷門から仲見世の奥が見通せない混雑を横目に、新春浅草歌舞伎第二部を観てきた。

歌昇の『熊谷陣屋』から、種之助が『流星』を踊り、最後に松也の『魚屋宗五郎』である。そして、この日のお年玉<年始ご挨拶>は隼人。階段のない舞台から身軽に客席に飛び降り、お客さんにインタビューした後も、軽々と舞台に飛び上がってみせたのは驚きである。

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今年の浅草歌舞伎で松也、歌昇、巳之助、新悟、種之助、米吉、隼人の7名が“卒業”する、いわば卒業試験のような演目が並び、中でも歌昇の『熊谷陣屋』は最難関と言えるだろう。

が、まずまず大健闘と言っていい出来だったと感じた。当然ながら吉右衛門の熊谷を思い出し出し観ていくことになるのはしかたのないことで、歌昇にしても目指すのは吉右衛門の熊谷であるのは言うまでもない。そしてどこまで吉右衛門に迫れたか……ひとかたならぬ思い入れをこめての大熱演が繰り広げられた。

もちろん、吉右衛門の大きさは望むべくもなく、歌舞伎座の舞台にかけるのは時期尚早ではあれど、歌昇なりの熊谷次郎直実が描けたのはなかっただろうか。だが、先はまだまだ長い。

新悟の相模、莟玉の藤の方、巳之助の義経と堅実である。そしてもちろん、人間国宝歌六の弥陀六が圧倒的な存在感で一気に舞台が締まった。

二つ目『流星』は、種之助一人で流星を屈託なく踊るもの。1時間半の大作2本に挟まれた一服の清涼剤。

最後が松也の『魚屋宗五郎』である。メンバー9人勢揃いに加えて、ベテランの橘太郎と歌女之丞が脇を締める。酔ってからの松也は大柄のゆえ、舞台狭しと暴れまくって豪快といえば豪快か。

記憶に残るのは種之助か。第二部でも流星を踊り、宗五郎でも小奴三吉で存在感を示していたが、女形から赤っ面までと、器用な役者になってくれるだろう。

終演後は1階ロビーで行われていた、メンバー9人が並んで待つ能登地震義援金に協力。腹が減っていたので、雷門近くの蕎麦屋で天麩羅蕎麦と天丼、ビールに日本酒一合で帰宅。

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緊話§壽初春大歌舞伎昼の部~松緑~ [歌舞伎]

正面の立派な門松の間を通って歌舞伎座の正月興行壽初春大歌舞伎昼の部を観てきた。

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『當辰歳歌舞伎賑』は、賑やかな『五人三番叟』が初月気分を盛り上げる。特に鷹之資の踊りが際立っているように感じた。続く『英獅子』は、雀右衛門、鴈治郎、又五郎。

そして、早くも再演された『荒川十太夫』が、この日の見ものだった。前半の高輪泉岳寺での演出が初演からかなり変わっていて、ストーリーが見えるように感じた。この日一番だったのは、松平隠岐守が直々に十太夫を調べるという場。松緑務める十太夫の振り絞るような台詞回しに、客席は水を打ったような静けさに包まれた。

新作が、再演を重ねれば重ねるほど練り込まれていく様子を見たような気がする。さらに再演を重ねてほしいものだ。

三本目、江戸みやげ『狐狸狐狸ばなし』……喜劇というには、客席の笑いは少なめかなと思った。喜劇は本当に難しい。とりわけ、暗転での場面転換が多用されたことで、筋が切れ切れになってしまったのではなかったか。廻り舞台をうまく使えば、話が繋がっていったかもしれない。幸四郎の手拭い屋伊之助、染五郎の又市……意外にも染五郎の喜劇役者として笑わせることができるのだということを確認。

とはいえ、喜劇としてはあまりいい後味とは言えないような気がする。それに荒川十太夫から台詞劇が二本続いたのもちょっと疲れてしまったのだ。

終演は15時。夕方から雪模様という予報に、帰り道を急ぐ。新宿で夕食のあれこれを買って、最寄駅に着いたら予報どおりの小雪。帰宅したのは17時半過ぎだった。

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奇話§歌舞伎・・・・・・その先へ行ってみよう [歌舞伎]

先月、新橋演舞場では新作歌舞伎『流白浪燦星(ルパン三世)』が上演され、なかなかの評判だったようだ。

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同じく去年は新作歌舞伎『ファイナルファンタジーX』も上演されチケットの売れ行きも上々だった。歌舞伎については初心者であっても、それぞれのファンが劇場に訪れたのは明らかで、歌舞伎界としては一定の成果があったと評価しているだろう。

だが、問題はその先で、そうして劇場にやって来た“歌舞伎初心者”たちをどのように伝統的歌舞伎の世界に引き入れられるだろうかと考えている。

当然ながら松竹だってそのことを考えていないはずはなく、あれやこれやの策を練っているに違いない。

某民法のテレビ番組では“歌舞伎座支局”なるものを設定して、歌舞伎の舞台だけでなく、大道具や小道具から殺陣、イヤホンガイドに至るまで、かなり深堀りして紹介をしていたが、なかなかに好評だと聞いている。

ルパン三世やファイナルファンタジーをとっかかりに、それじゃあ古典作品を観てほしいと思うのは人情だが、なかなかそこに入っていくのは難しいことだろうとは、自分自身も観始めた最初は何が何だかわからなかったので、これは辛抱が必要だと思う。

ただ、せっかくおもしろいと感じたのに、それで終わりではもったいなく、その先へと興味を繋げていってほしいのだが。

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余話§新春浅草歌舞伎第一部~米吉~ [歌舞伎]

新春浅草歌舞伎三日目第一部に行ってきた。

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巳之助のお年玉(年始ご挨拶)に始まり『本朝廿四孝~十種香~』から『与話情浮名横櫛~源氏店~』と続き、最後は『神楽諷雲井曲毬~どんつく~』で賑やかに終わる。

第一部は米吉奮闘公演、十種香の八重垣姫、源氏店のお富、どんつくで芸者と舞台に立った。

さて十種香。何をやっているのかな?……という印象である。そもそも筋らしい筋がなく“しどころ”が判然としない芝居であるがゆえに。手探りで務めている感が強く、全体が平板な印象である。

そんな中にあって、橋之助の勝頼(花作り蓑作)が、はんなりとした白塗りで存在感を感じさせた。米吉の八重垣姫は、ひたすら“勝頼様恋しや”の舞台というところ。歌昇の謙信も大きさを見せてくれた。

そして源氏店。米吉のお富が八重垣姫から打って変わって、蓮っ葉で投げやりなお富を演じていたが、隼人の与三郎はもっと頑張ってほしかった。我々の直近の記憶の中にあるのは、仁左衛門の与三郎。仁左衛門の台詞回りを出そうと奮闘するが、被り物の手拭いを取って、あの名台詞で力尽きてしまったのだ。歩留まりはまあ……2割いっていただろうか。松也の蝙蝠安は台詞が酔っぱらいのようなのと、着物がおろし立てのようで妙にきれいに見えてしまって。ちょっとニンではなさそう。

そこに圧倒的な存在感を示したのが“人間国宝”歌六の多左衛門とベテラン橘太郎の番頭藤八。あたかも彼らだけで舞台が動いているような芝居を見せていたというのは大げさかもしれないが。高校ラグビーの選手に一人交じったオールブラックスの選手……という雰囲気を感じてしまった。

最後のどんつくは、年始ご挨拶で巳之助が「浅草公会堂4階北側の窓から見える浅草寺を背景に」というとおりで、いかにもなクールダウン。歌昇が器用に太神楽の花籠鞠(どんつく)の球を操っていていたのには驚いたのだ。

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今回で松也、歌昇、巳之助、新悟、種之助、米吉、隼人の7人は卒業。橋之助と莟玉は残って、来年は新しい座組での浅草歌舞伎となる。7人にとっては“卒業試験”となったわけだが……さて?

14時15分過ぎに終演。帰り道、浅草公会堂裏にある佃煮屋で3品ほど土産に買い、地下鉄を乗り継いで、17時前には帰宅。

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槍話§十二月大歌舞伎~爪王~ [歌舞伎]

師走も終わりに近づいた土曜日、第二部を観てきた。舞踊劇『爪王』と講談を基に、神田松鯉の脚本協力を得た『俵星玄蕃』の二本立て。

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30分ほどの『爪王』が見もの。七之助の鷹、勘九郎の狐が繰り広げる戦いの様子がダイナミック。長唄の伴奏を聴きながら、西洋音楽を使ったらおもしろいかもと考えていた。勘九郎と七之助兄弟の踊りは伝統とモダンさが融合して、古臭さをまったく感じさせないのだ。彦三郎の鷹匠、橋之助の庄屋。

休憩後に『俵星玄蕃』……1月に再演される『荒川十太夫』と対をなす作品である。

残念ながら『荒川十太夫』ほどは楽しめなかった。坂東亀蔵の蕎麦屋と松緑の玄蕃のやり取りが表面的でもう少し肚(ハラ)らしきものが見えてくれればおもしろかったのにと思う。

舞台を回すところで現れる人物が何なのか、黙役なのでわからず。そして、討ち入りで、吉良家の加勢に駆け付けた上杉藩の武士との立ち回りがやたら長過ぎたのはどういうことか。

題材そのものは悪くはなく、もう少し練り上げていけば形になってくれるのではと期待したい。

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悔話§勘三郎没して十一年 [歌舞伎]

十八世中村勘三郎は2012年12月5日に逝去した。今年で没して11年……来年はもう十三回忌となるが、何とまあ早いことかと思う。

今さらながら、今も存命であったらどんな役者になっていただろうか。間もなく七十となる勘三郎の舞台は、おそらく晩年近くまでのエネルギッシュな舞台ではないだろうが、それでも自在さはより増して、刺激的な芝居を見せてくれていることは間違いない。

菊五郎、吉右衛門、仁左衛門、白鸚たちに次ぐ次世代の大看板として、歌舞伎界をがっちり背負って大黒柱、屋台骨を支えていたはずが、勘三郎ばかりか三津五郎まで別の世界に行ってしまっては、一気に手薄になってしまったことがどれほどの痛恨だったか、歌舞伎歴の浅い我々のような人間でも理解できることだ。

そして、死んだ子の年を数えても詮のないことは百も千も承知しているが、彼ら二人が現役でバリバリ舞台に立っていたら、今のような歌舞伎界が低空飛行するようなこともなかっただろう。

人間は順番どおりに天に召されていってほしいと切に願っているのは、そうすることで世代交代がしかるべく行われるからだと思っているからである。

毎年、この日になると同じ繰り言を書いているわけだが、いつも合わせて書いているのは同じ日に亡くなったモーツァルト。没して232年が過ぎた。

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秋話§吉例顔見世大歌舞伎~中村芝のぶ~ [歌舞伎]

すべては、超大抜擢の中村芝のぶ務めた鶴妖朶王女(づるようだおうじょ)の主役二人、菊之助と隼人の存在が薄く見えた“陰の主役”に尽きてしまう。

序幕冒頭、神々が話し合う場面は『仮名手本忠臣蔵』の大序を模したものと見ることができたが、このあたりが歌舞伎なのだ。

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芝のぶは梨園の育ちではなく、国立劇場歌舞伎俳優研修を修了して歌舞伎界に入ってきて、名題まで昇進したが、この先幹部まで上がることはあるだろうが、大きな役をもらえることなどはまず考えられず、そういう意味では、まさに大抜擢なのである。

さて『マハーバーラタ戦記』は、2017年に歌舞伎座で初演されている。その時も観ているが、今回観ていて“何も覚えていない”ことを白状しなくてはならない。世界三大叙事詩ということだが、歌舞伎のこしらえにインドの人が額につける赤い印“ティーカ”で、言ってしまえば大雑把になぞったに過ぎないということか。

芝のぶの鶴妖朶王女は、ひときわ異彩を放っていて、時に他の役者との間に違和感を覚えなくもないが、それだけ役作りに集中したと想像できて、見事な悪女を構築していた。あれだったら『伽羅先代萩』の八汐を観てみたい。

大詰の戦場の場での最期に見せた階段落ちの壮絶さは、久々に歌舞伎舞台で背筋が凍るものだった。そして、個人的にこの『マハーバーラタ戦記』は、もう一人の女形米吉である汲手姫(くんてぃひめ)と、二人の存在感が際立つものだったような気がする。

芝居がはねて地下の木挽町広場で舞台写真を買おうとしたら、これまで見たことのない長蛇の列。これはいかにと列に並んで、一枚だけ芝のぶの鶴妖朶王女を買おうとしたら、レジの受取場所で売り切れと言われたが、待つこともなく追加が届いていて手にすることができた。察するところ、昼の部の売れ行きは、米吉と芝のぶの二人に集中していたようである。

帰りは、教文館年末恒例のクリスマス・ショップに行き、新宿まで戻ったところで、とんかつで歌舞伎疲れを癒したのだ。

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秋話§吉例顔見世大歌舞伎~仁左衛門の松浦~ [歌舞伎]

歌舞伎座新開場十周年記念吉例顔見世大歌舞伎夜の部に行ってきた。気温が一気に下がった日曜日、歩いている人の服装も冬物へと劇的な変化。そして歌舞伎座正面には顔見世櫓があがっていた。

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仁左衛門の松浦侯で、秀山十種の内『松浦の太鼓』に始まり、梅枝の時姫で『鎌倉三代記~絹川村閑居の場~』を、最後に『顔見世季花姿繪』と銘打たれた踊り3つ……春調娘七種、三社祭、教草吉原雀である。

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まずもって仁左衛門の松浦鎮信が自在。11月は二世中村吉右衛門が逝去して三回忌にあたり、仁左衛門の吉右衛門リスペクトが色濃く、一瞬だけだが、吉右衛門と重なるような松浦侯がいたような気がした。そうして記憶をたどるなら、仁左衛門で松浦侯の舞台を観るのは初めてなのだった。

松緑の大高源吾……長いこと梅玉で観ていた源吾だが、年齢的なこともありで分別臭いものと感じることが多かった。だが、松緑の源吾は落ちぶれ果てた浪人の様子そのもので、歌六が務めた宝井其角との対比も上々である。

吉右衛門リスペクトは、歌六に加えて源吾妹お縫が米吉だったことで、そうでなければ孫の千之助を使っていたかもしれない。そんな吉右衛門に対する思いが表出した1時間15分の舞台だったのだ。

続く『鎌倉三代記~絹川村閑居の場~』を観るのは初めてで、粗筋を頭に入れてはいたが、あまり動きのない舞台ゆえ疲れるばかり。古風な女形の顔立ちの梅枝の時姫、時蔵の三浦之助義村、芝翫の佐々木高綱、東蔵の母長門。

『顔見世季花姿繪』の一つ目『春調娘七種』は曽我の五郎と十郎に静御前が絡むという不思議な舞踊。種之助の五郎が長袴での荒事の踊りは観ていてハラハラした。染五郎(同じく長袴)の十郎は……。左近の静御前は意外な拾い物か。

『三社祭』は巳之助の悪玉が丁寧でよかったが、右近の善玉は“岡村研祐時代という過去の栄光”と見受け、鼻につくのを感じてしまった。

踊りが三つも続くとさすがに飽きるし『鎌倉三代記』の疲れを引きずって、うーんやっぱり、欲張らずに席を立つのが正解だったかもしれない。

終演21時、電車を乗り継いで22時半過ぎの帰宅。

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芝話§歌舞伎座の昼と夜 [歌舞伎]

コロナ禍は以前継続中だが、歌舞伎座は通常の昼夜二部興行に戻っている。

昼の部開演は11時と決まっている。平日のそんな時間に勤め人が芝居を観るなどできようはずもなく、もちろん宮仕え時代は土曜か日曜の歌舞伎見物に限られて、チケットの確保には苦労した。

我が家を朝9時前には出て、電車を乗り継ぎ東銀座は木挽町の歌舞伎座へと向かう。途中、デパ地下で昼食の弁当を買い込んで行く。歌舞伎座に通い始めた頃は、地下にあった食堂や階段横のカレー屋、奥の蕎麦屋で食べたりしていたが、今はすっかりデパ地下の弁当類に落ち着いたのだ。

昼の部がはねるのは15時半前後……頃合いもよしで、意見が一致すれば、夕食などを楽しんでみるも佳き。そのあたり土日に観劇していた時は融通できた。今は求めやすい平日に出かけることもあって、そうすると勤め人の出勤時間と帰宅時間にぶつかってしまう。高齢者には、込み合う時間帯は辛い。

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夜の部の開演は16時か16時半だが、最近は16時半が多いだろう。出かけていくにはいい時間だが、今度は終演時間が気になる。長い時など21時を軽々と超えてしまうから、家に帰り着くのは22時半とかになって、今や早寝早起きとなった我が身が恨めしいと感じる。

まだまだ元気だった五十代の頃は、20時過ぎに終演した後、キリンシティあたりでビールを2杯くらい引っかけてということもあったが、今はもう、とてもとてもとなってしまった。

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憑話§義経千本桜~忠信篇~立飛歌舞伎 [歌舞伎]

立川の某企業の創立百周年を記念しての、歌舞伎興行イベントを観てきた。会場は立川ステージガーデン、収容2500人という大規模ホールは、歌舞伎座よりも空間が広く、まあ……歌舞伎を観る劇場ではない。

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3階席左側のチケット最安席は、舞台下手の半分がまったく見えず、舞台上左右に吊るされた巨大ディスプレイばかりで観ることになった。

さて『義経千本桜~忠信篇~』は、伏見稲荷鳥居前から道行初音旅、川連法眼館である。

伏見稲荷鳥居前……鷹之資の忠信、笑也の静御前。鷹之資の忠信がいい。父富十郎を彷彿とさせる身体のキレが舞台を締めた。鷹之資で忠信編全部を観てもいいと思わせるものを感じた。

道行初音旅……代わって團子の忠信、壱太郎の静御前、猿弥の逸見藤太。まずもって猿弥の安定感が際立つ。團子の忠信は丁寧に安全運転の舞台。まだまだこれからに期待したい。

川連法眼館……青虎の忠信が、台詞回し、所作ともに水準以下。狐忠信の狐ことばの間が悪く、時に間延びしたり甲高い声から言葉の切れる決めなどがまるで出来ておらず。所作にもキレがなく、ジャンプは重く膝を支点にして回るところもスピード感に欠けていた。さらに手にした鼓を喜びながら回すところで、コントロールが悪くて曲がってしまったり、3人替わりした忠信の中では一番の不出来である。

93歳の寿猿が川連法眼を務めた。立ち上がる時に少しよろけたりしたが達者に務めていた。中車の横川覚範実は能登守教経、笑三郎の義経。

なお、宙乗りは舞台下手花道あたりから、3階席上手へと斜め対角線にというものだった。大量の桜吹雪で、鳥屋下2階席のお客さんは桜に埋もれた。

終演は17時15分と4時間の舞台はさすがに疲れてしまった。劇場を出て少し歩いたところにうまい蕎麦の店があると聞いていたので、軽く酒を呑み、蕎麦を手繰って帰宅。

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