SSブログ

流話§秀山祭九月大歌舞伎~大歌舞伎の空気~ [歌舞伎]

9月も半ばになったというのに、先週土曜日の東京の最高気温は34.1度……極力日向に出ないよう考えながら、電車を乗り継いで東銀座の歌舞伎座へ。二代目吉右衛門が生きていれば80歳の秀山祭九月大歌舞伎夜の部を観た。

2409_kabukiza.jpg

まず『妹背山婦女庭訓』“太宰館花渡し”と“吉野川”が、合わせて2時間40分の長丁場である。吉野川を観るのは2007年に初めて観て以来、4回目。今回ようやく内容への理解が追い付いてきたと感じたが、まだまだである。

まず、20分ほどの“花渡し”は軽いジャブといったところだが、吉之丞の蘇我入鹿に悪の大きさが感じられず、そこは役者の格が必要だと痛感した。

そして“吉野川”は、両花道から続く本舞台の吉野川を挟んで、上手が大判事(松緑)の屋敷、下手が定高(玉三郎)の屋敷、そして左右に義太夫が並んでそれぞれの屋敷の様子を語り分ける、大きなスケールの2時間近い舞台。

前半は緊張が続かなかったが、後半……大判事が久我之助(染五郎)を、定高が雛鳥(左近)を手にかける場面の充実がすばらしかった。舞台の空気が一気に大歌舞伎へと昇華していく様を眼にしたのだ。これで、松緑の口跡がもう少しキリっとしてくれたらなあと思った。だが、4回目にして“吉野川”がようやく見えてきたようだ。

35分の休憩があって『勧進帳』はきついものがあった。何もこんな大物を一晩で観せてくれなくてもと思えど、そこは秀山祭だからしかたがない。そして『勧進帳』という題名の後に“二代目播磨屋八十路の夢”と銘打たれて、甥の幸四郎が弁慶、義理の息子の菊之助が富樫、そして幸四郎の息子染五郎が義経を務めた。

……だったが、弁慶と富樫の息がもう一つ噛み合わず、問答などももどかしく感じた。勧進帳という芝居への意気込みと、弁慶と富樫それぞれの表現が大きくずれてしまっていて、もったいない勧進帳だった。これはもう、この先末長く数を重ねて、密度の濃い舞台を構築していってほしいものである。

終演は20時50分過ぎ、電車を乗り継いで22時半前の帰宅はちょっと辛い。

《歌舞伎のトピックス一覧》
nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:blog

謡話§『お富さん』のおかげで(笑 [歌舞伎]

1954年、春日八郎が歌った『お富さん』がミリオンセラーとなった。題材は歌舞伎の『与話情浮名横櫛』で、ご存じ“お富与三郎”である。



いつの間に覚えたものか、とんと記憶にはないのだが、歌詞をほとんど覚えてしまっていて、調子よく歌うことができてしまう。

♪粋な黒塀 見越しの松に
仇な姿の 洗い髪
死んだはずだよ お富さん
生きていたとは お釈迦さまでも
知らぬ仏の お富さん
エッサオー 源冶店♪

歌のおかげかどうか、初めて歌舞伎の舞台に接した時も、おもしろいくらい内容を理解することができたのには我ながら笑ってしまった。歌詞が情景を表したり与三郎の心情を巧みに描写していて、まんま芝居のダイジェストに仕立てられていたからだ。

ところが、作詞した山崎正は歌舞伎をまったく知らず、作曲の渡久地政信に至っては“歌舞伎は大嫌いで観たこともない”という……それでも何とか、一曲に作り込んでしまうあたりはお見事な手腕と言うべきか。

その後“二匹目のどじょう”を狙って『白浪五人男』を題材に『弁天小僧』を三浦洸一が歌ったが、お富さんほどのヒットにはならずに終わったのだ。

《歌舞伎のトピックス一覧》
nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:blog

鵑話§八月納涼歌舞伎~勘九郎の新三~ [歌舞伎]

八月納涼歌舞伎。日曜日に11時開演の第一部と第二部を続けて観てきた。第二部の終演は17時半頃。

2408_kabukiza.jpg

第一部は『ゆうれい貸屋』と『鵜の殿様』と軽いジャブの二本立て。だが、山本周五郎原作という『ゆうれい貸屋』が薄味。巳之助の桶職弥六、児太郎の芸者の幽霊染次、勘九郎の屑屋の幽霊又蔵は、17年前にそれぞれの父親が務めた役を引き継いだが、特に児太郎の染次の蓮っ葉さは父福助には勝てない。そして94歳の寿猿が務める爺の幽霊の矍鑠ぶりが際立った。むしろ二本目の『鵜の殿様』での幸四郎&染五郎親子……特に鵜をさせられた染五郎の身体を張った奮闘ぶりが客席をさらっていたのだ。

さて第二部、お目当てはもちろん梅雨小袖昔八丈『髪結新三』である。勘九郎の新三が観たいとかねがね切望してきた舞台がようやく実現。

白子屋の娘お熊の婿取りひとしきりがあって新三が登場。門口から様子を窺う立ち姿は、小悪党というより、もっと大きな悪を感じさせる。少しばかり力みを感じるようなところもあったが、それも初役のゆえか。七之助の手代忠七との永代橋川端の場あたりから凄味ある悪が迫力満点。

そうして“新三内”では幸四郎の弥太五郎源七をやり込めた後、彌十郎の家主長兵衛とのおなじみの場面でのアンサンブルが絶妙で、丁々発止のやり取りを楽しめた。下剃勝奴は巳之助……父親の新三で勝奴を演りたかった勘九郎だが叶わず、三津五郎で勝奴を務められた、そんな流れでの巳之助勝奴なのである。鰹売りはいてうで、これがまた活きのいい魚屋を演じてくれた。

残念なのは幸四郎の弥太五郎源七で、どうしても“いい人”然として恰幅がいいとは言えず。その他、扇雀の白小屋お常、鶴松のお熊、中車の藤兵衛、亀蔵の善八、歌女之丞の家主女房おかく、長三郎の丁稚長松。

新三の後に出た『艶紅曙接拙』が、何だか訳のわからない踊りで、クールダウンにもならず、やっぱりお先に失礼してもよかったか。

《歌舞伎のトピックス一覧》
nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:blog

申話§七月大歌舞伎~三番叟?~ [歌舞伎]

七月大歌舞伎夜の部『裏表太閤記~千成瓢薫風聚光~』を観てきた。1981年に三代目猿之助が上演した舞台を大幅改訂しての再上演。

2407_kabukiza.jpg

うーん……おもしろかったか、楽しんだかと聞かれたら首を傾げてしまう。第一幕は光秀の本能寺謀反、第二幕は秀吉の高松城水責め、それぞれにまつわる舞台で、一応の歴史的経緯は頭の中に入っていたので何とかなったが、さて、芝居としての完成度がどうかと聞かれたら、首を縦に振ることはできない。

時代物として観るなら台本が薄くて全体に厚みが感じられず、先を見通しにくく、捉えどころがないと感じてしまった。三幕それぞれが1時間、1時間20分、50分と長く、もう少し台本を刈り込めばテンポ感のある舞台になってくれたのではないか。

さらに……第三幕が孫悟空登場という意味不明なと思いきや、何ことはない猿と呼ばれていた秀吉から引っ張ってきたという強引さに加えて、三幕後半は、夢から醒めた秀吉が、三番叟を踊るという意味不明な幕切れ。

力技と言えなくもないが、記憶に残っている見せ場が、本水と宙乗りでは、いささかな企画倒れではなかったか。

幸四郎の秀吉、染五郎の鈴木孫市、白鸚の大綿津見神、松也の光秀、ほか。板付きで登場の白鸚は、さすがに老いが目に立つ。それに比べて94歳の寿猿が舞台上を動き回って、台詞もはっきり聞こえてきたのは驚異的である。

追記:七月大歌舞伎は、昼夜とも宙乗りがあって、さすがに「食傷した」とお冠なのは、某演劇評論家の今月の歌舞伎評

《歌舞伎のトピックス一覧》
nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:blog

糸話§六月大歌舞伎~襲名昼の部~ [歌舞伎]

萬屋の襲名興行昼の部を観てきた。獅童と菊之助の『上州土産百両首』から『義経千本桜~所作事時鳥花有里~』があって、最後に時蔵襲名披露狂言の『妹背山婦女庭訓~三笠山御殿~』まで。萬屋と播磨屋勢揃いである。

2406_kabukiza.jpg

まずは獅童と菊之助の百両首。1時間半と長い芝居だったが、雰囲気を感じさせる舞台。獅童と菊之助はそれぞれの持ち味を出していたが、菊之助にはもう少し喜劇風味を盛ってほしい。

義経千本桜の“時鳥花有里”は、2回ほど観ていたようだが、舞台が華やかという印象しかなく、今回も同じだった。

そして、梅枝改め時蔵の襲名披露狂言『妹背山婦女庭訓~三笠山御殿~』である。やや面長で古風な顔立ちの時蔵は、将来の立女形として期待されているのは間違いなく、襲名披露狂言でもその実力を如何なく発揮してくれたと思う。劇中で行われた襲名披露口上は、仁左衛門の豆腐買おむらを芯に、右に新時蔵、左に新梅枝と簡素なものである。

御殿に登場する“いじめ官女”が、萬屋と播磨屋8人……歌六、又五郎、錦之助、獅童、歌昇、萬太郎、種之助、隼人という大ごちそう。通常公演だったら陰湿に見えないこともない場面だが、その手前で留まっていたのではないか。

松緑の漁師鱶七(金輪五郎今国)は、存在は大きいものの、時折口跡が悪く、台詞が聞き取れないとこがいくつか。萬壽の求女(藤原淡海)、七之助の入鹿妹橘姫。

《歌舞伎のトピックス一覧》
nice!(2)  コメント(0) 
共通テーマ:blog

童話§六月大歌舞伎~襲名興行~ [歌舞伎]

六月大歌舞伎は萬屋“初代中村萬壽、六代目中村時蔵襲名披露、五代目中村梅枝初舞台”合わせて中村獅童の息子二人陽喜と夏幹の初舞台である。

2406_kabukiza.jpg

祝幕が2枚出るのは珍しいのではないか。萬壽、時蔵、梅枝は千住博の滝であるが、欧文では“饅頭”と読めてしまったりで成功しているとは思えない(個人の感想

IMG_4780.JPG

獅童の息子二人の祝幕はビートたけしによるもの。

IMG_4781.JPG

浅草歌舞伎卒業組の同窓会のような『南総里見八犬伝~円塚山の場~』は、8人が顔を合わせた“だんまり”で終わった30分の舞台。

二本目が萬壽、時蔵、梅枝襲名披露狂言『山姥』で、金太郎(坂田金時)の成長譚。梅枝襲名披露にふさわしい、ほのぼのとした一幕……山姥の踊りは、ちょっと退屈だったが。菊五郎以下、歌六、錦之助、芝翫と賑やかな舞台。

↓新潟は久保田の“萬壽”
f9777c7c1fa5657e6e9d86007149d9ba.jpg

さて、最後が獅童の『魚屋宗五郎』である。禁を解いて酒を呑む場面は、やはり手強かったか、雑に酔っぱらっていってしまったように感じられた……いい役者だと、酔っていく段階を“5”くらいで演じ分けるところ、獅童は3段階くらいで酔いを回りきってしまったのだ。

おおよそ。茶碗3杯目で酔いが回ってくるところ、2杯目で酔っ払いだしてしまって、その先はぐずぐずの酔態ではなかったか。次第次第に酔っていく様子を、もう少し丁寧に順を追って演じてほしかったと思うのだが。

七之助の女房おはま、権十郎の父太兵衛、萬太郎の小奴三吉、孝太郎の召使おなぎ、隼人の磯部主計之助他、いい座組だっただけに惜しい芝居である。

《歌舞伎のトピックス一覧》
nice!(2)  コメント(0) 
共通テーマ:blog

週話§日曜流転~芝のぶの八汐……歌六休演~ [歌舞伎]

『マハーバーラタ』から半年後、まさか芝のぶの八汐を眼にするとは思いもしなかった。

芝.jpg

5月20日、中村歌六が体調不良で休演。松島を務めていた中村芝のぶが代役として八汐を務めると知った。ならば一幕見席でと、12時に発売が始まる翌日の幕見席を慌てて確保。勇躍そして久々に天井桟敷からの観劇である。

IMG_4757.jpg

そして席につけば、いつもであれば外国からのお客さん度が高い幕見席であるところ“同好の士”が勢ぞろいしたようで、幕が開く前から不思議な一体感に包まれたのだったのだ。

それにしても、よもや芝のぶが八汐を務めるとは……『マハーバーラタ』について書いた時は、ほんの軽口のつもりだったし、そもそも八汐は立役が加役として務めるもので、これまでも段四郎、仁左衛門、そして今回の歌六といった立役の面々を観てきて、真女形が八汐を務めたのは観たことがない。

だが、まさかの芝のぶ抜擢代役とは。そんな幕見席急遽参上連中が固唾を呑んで見守る中、芝のぶの八汐が登場。立役の八汐が“作り物”だったのに比べると、芝のぶの八汐はまさに悪女がそこにいる“女度”の高い、怖さ満点のファム・ファタール(魔性の女)なのである。そして芝のぶ渾身の舞台である。いつか本役で観ることができるだろうか。

かくして幕見席の一体感の中、我々は“芝のぶの八汐”を見届けることができた。あらかじめチケットを買っていた3階席以下のお客さんとは、一味も二味も違う、初めて味わった4階ならではの楽しい空気感と言えるだろう。

追記:千秋楽は歌六が復帰。芝のぶの八汐は25日までの6日間だった。

歌.jpg

《歌舞伎のトピックス一覧》
nice!(2)  コメント(0) 
共通テーマ:blog

薫話§五月大歌舞伎~團菊祭にもかかわらず~ [歌舞伎]

思ったほど気温が上がらず、体感的には涼しいくらいだったので長袖シャツを引っ張り出してちょうどよかった日曜日、團菊祭五月大歌舞伎夜の部を観てきた。

2405_kabukiza.jpg

二本立てで『伽羅先代萩~御殿、床下~』と『四千両小判梅葉』それぞれが一時間半超えの舞台……日曜日というのに客の入りが渋い。座ったブロックの我々の列と前2列などはスカスカ。2階上手桟敷も半分は座っていたか、連休直後であるにしても、これが團菊祭の客席かと思うほど。

まず『伽羅先代萩』は、菊之助の政岡、歌六の八汐、雀右衛門の巴御前、米吉の沖の井、芝のぶの松島(これも抜擢)である。

だがまず、菊之助の政岡が一幕通して薄い。淡白なのは音羽屋の芸風ではあるけれど、とりあえず段取りどおりに芝居を進めましたという印象しか残らない。そんな芯の政岡に引っ張られて、歌六の八汐もネチネチさが足りないようだったし、雀右衛門の巴御前もそうだが、全般中途半端な舞台に終始したと感じたのだった。

御殿に続いて、10分足らずの床下は右團次の荒獅子男之助、團十郎白猿の仁木弾正。昼夜と漏れなく登場する白猿だが、夜の部だけにしたのは、床下の弾正には一言もセリフがないからである。

二本目の『四千両小判梅葉』は、2012年に観て以来だが、その時とまったく同じ感想……御金蔵破りの動機の希薄さ、唐丸駕籠の中の富蔵と家族との別れの愁嘆場の悪目立ち。あの黙阿弥にして何という出来の悪い台本なのか、さすがに辟易してきてしまったので『伝馬町牢内~牢内言い渡し』は観ず、夫婦示し合わせて退出。20時前に東銀座を出て、最寄駅には21時過ぎ到着。

《歌舞伎のトピックス一覧》
nice!(2)  コメント(0) 
共通テーマ:blog

経話§歌舞伎鑑賞歴二十年超ですが [歌舞伎]

歌舞伎を“まじめ”に観るようになったきっかけは、2001年秋の平成中村座公演で当時の勘九郎(十八代目中村勘三郎)の義経千本桜『忠信編』と『権太編』からである。とくに『すし屋』の権太の印象が強烈すぎて、はまり込むことになってしまったのである。

そして翌年から本格的に歌舞伎座本興行に突入することになった。そして、思わず張り込んでしまったのが、四代目尾上松緑襲名披露五月大歌舞伎での『寿曽我対面』だった。何と不遜にも、花道すぐ近くの桟敷席を取ったのだが、その時、花道を歩く役者の衣装の衣擦れの音にやられてしまったのだ。

……こうした“合わせ技”のおかげで、遅まきながら歌舞伎観劇の道を歩むことになったのだが、それまで観なかったことを本当にもったいないと悔やむのは、まあ当然のことだろう。ゆえに、世代的には二つ前の、六代目歌右衛門、十七代目勘三郎、二代目松緑の舞台は観ていない。

↓実舞台を観たのは中村又五郎以降
IMG_4710.JPG

つまり観始めたのは、七代目芝翫、四代目雀右衛門、四代目藤十郎以降で、亡き十八代目勘三郎、十二代目團十郎、十代目三津五郎、二代目吉右衛門、そして今も現役で奮闘している七代目菊五郎、十五代目仁左衛門が全盛期にあって、充実した舞台を見せてくれた……それが観始めてから10年ほどの間に享受したことだった。

今、我々が観ている歌舞伎は、そうした前世代から新しい世代への移行期にあって、幸四郎や勘九郎、菊之助、松緑といった四十代バリバリ組が一層の活躍を見せてくれれば、ここ何年か続く谷間の時期を抜け出せるのだが。

《歌舞伎のトピックス一覧》
nice!(1)  コメント(0) 
共通テーマ:blog

菜話§四月大歌舞伎~於染久松色読販と神田祭~ [歌舞伎]

すっかり桜も散って、今年の我が家周辺は花水木(ハナミズキ)が期待外れの咲き具合。という4月下旬が始まったところで歌舞伎座に行ってきた。四月大歌舞伎夜の部である。

2404_kabukiza.jpg

お目当ては2018年、2021年に続いて三度目となる仁左衛門&玉三郎コンビによる『於染久松色読販』と『神田祭』の二本立て。

もう、何も言うことはなく、仁左玉が持てる魅力を振り撒き尽くした贅沢な時間だった。とにかく仁左衛門の“悪”の凄みは比類なく、それが玉三郎と共演することで魅力が二倍にも三倍にも膨らんでいく。脇を固めた橘太郎の久作、錦之助の清兵衛、彦三郎の太郎七などなど、手堅くまとまっていた。

そして“お口直し”に置かれた『神田祭』の贅沢なこと。二人が“じゃらつく”様子は、まさに恋仲の二人の濃密さで、ほぼ満員の客席の喜ぶまいことか。

1970年に始まった孝玉から仁左玉へと、半世紀以上続いた稀有なコンビだがもう終わりは遠くないところにあるだろう。せいぜい、舞台に登場する時を待ち構えて、せっせと通わなくてはと思う。

最後に『四季』が、春“紙雛”~夏“魂まつり”~秋“砧”冬~“木枯”と踊られたが、相変わらず舞踊は苦手なのと、さすがに冗長な踊りばかりで、帰ってもよかったかと思っていたら、最後に冬の木枯の冒頭、群舞の中の一人がバレエの“トゥール・アン・レール”で三回転して見せたのでびっくりした……心の準備ができていなかったのだ。

まったく予想などしているはずもない唐突なことだったが、それにしても、名題下の役者の中にバレエの経験者でもいるのか……まさか、たった一回の回転のためにエキストラを呼んだとも思えないし。

夜の部は19時半と珍しくも早い時間の終演。ちょっと軽いと思わないでもなかったが、それでも帰宅は21時過ぎだった。

《歌舞伎のトピックス一覧》
nice!(3)  コメント(0) 
共通テーマ:blog

跡話§三月大歌舞伎~恐るべし仁左衛門~ [歌舞伎]

日曜日に三月大歌舞伎昼の部を観てきた。それに先立つ3月14日には松嶋屋片岡仁左衛門が80歳の誕生日を迎えていたのだった……80歳である。

2403_kabukiza.jpg

そんな仁左衛門が今月務めたのが『元禄忠臣蔵~御浜御殿綱豊卿~』の綱豊である。しかも真山青果――我が家では真山フルーツと呼んでみたり――の台詞劇なのだ。そんなわけで真山の歌舞伎は苦手なので敬遠しているが、これは観ずばならないと歌舞伎座へ。

果たして、予想した通りの台詞劇……それも、長大な台詞が1時間半の中にぎっしりと詰め込まれていて、それを仁左衛門が淀みなく口にし、演技をしていく。そこには80歳の老いなど微塵も見えず、綱豊(後の六代将軍家宣)の当時の実年齢である40歳の壮年の姿があった。

綱豊に対峙する赤穂浪士富森助右衛門(幸四郎)との息詰まる問答こそ青果が意図した頂点であるのは言うを待たない。幸四郎もまた過不足なく仁左衛門と向き合っていたのである。

とはいえ、さすがに疲れた。こういうストレートプレイを観続ける根気が、いよいよ枯渇しつつあるのだろう。

昼の部は一本目『菅原伝授手習鑑~寺子屋~』が、菊之助の松王丸、愛之助の源蔵、新悟の戸浪、梅枝の千代、他。菊之助初役の松王丸は“ニン”にあるかどうかと思っていたが、これが菊之助?というような口跡に驚かされたが、うーん……意気込みは買うけれど、松王の貫禄は不足していた、ちなみに六代目は松王丸を務めているが、父菊五郎(七代目)は、千代しか務めてはいない。個人的には梅枝の千代がよかった。

二本目は四世中村雀右衛門十三回忌追善狂言『傾城道成寺』で、安珍清姫を元にした舞踊劇。

《歌舞伎のトピックス一覧》
nice!(2)  コメント(0) 
共通テーマ:blog

無話§歌舞伎の客席~通さん場~ [歌舞伎]

歌舞伎を観始めて何に驚いたかというと、幕が開いても遅れた客がかまわず入場してくることだった。

クラシックのコンサートだったら考えられないことで、おおらかと言うならおおらかだが、きちんと開演前に着いて座っている客の前を自分の席に入るとは何という狼藉であろうかと、今でも思っている。

昔の歌舞伎中継の映像を見ていると、たとえば『勧進帳』で富樫が舞台に登場していても、ぞろそろと客が入ってくる様子を呆然と眺めることになるのだ。

さすがに『仮名手本忠臣蔵』の判官切腹の場は“通さん場”と言って、客が途中から入場することを禁止しているが、そんなことが珍しがられるわけで個人的には、そうした出入り勝手御免のような悪癖はなくすべきだと考えているのだが。

結局は、だらだらと変わらないままだが、自分が座っている前を“とりあえず”は、申し訳なさそうに殊勝な顔をして通っていくが、歌舞伎座の客席は前が詰まっているので、場合によっては立ち上がらなくてはならず、そして後ろのお客さんまでが迷惑を被ることになってしまう。

もういい加減に、上演中の入場は禁止にして、最低限せめては舞台転換時に限って入場させるとか、そうした手立てを講じてくれないと、時間を守って着席している人間ばかりが馬鹿を見るようではないか。

《歌舞伎のトピックス一覧》
nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:blog

偲話§猿若祭二月大歌舞伎~勘九郎~夜の部 [歌舞伎]

今月は三連休が2回あって、最初の三連休最終日に夜の部を観てきた。猿若祭と銘打った十八世中村勘三郎十三回忌追善興行である。

2402_kabukiza.jpg

勘九郎長男勘太郎の猿若で猿若江戸の初櫓から、芝翫の『義経千本桜~すし屋』と続き、最後が勘九郎が親獅子、次男長三郎の子獅子で『連獅子』である。

↓今月は中村座の定式幕が使われる
IMG_4664.JPG

『猿若江戸の初櫓』は勘九郎が務めていた猿若を勘太郎が踊ってみせたが、さすがに荷が勝ち過ぎていたと感じた。七之助が出雲の阿国で好サポートしてはいたが、そこはやはり“子ども”と感じてしまう……指先まで神経を行き届かせて丁寧に踊ってはいたけれど。

さて、芝翫がいがみの権太を務めた『義経千本桜~すし屋』であるが、芝翫に花がない。脇はよく締まっていた……歌六の弥左衛門、時蔵の弥助(維盛)に息子の梅枝がお里、新悟の若葉の内侍、又五郎の平三景時、梅花の弥左衛門女房お米と揃っていたのに、どことなく主役がその中に埋もれてしまったと見えて、何とももったいない舞台。

最後の『連獅子』は、10歳9か月の長三郎の子獅子。兄の勘太郎が子獅子を踊ったのは9歳11か月だったが、勘太郎のほうが性格的に丁寧な踊り方をしていた記憶。長三郎はいささか大雑把……いつもは子獅子に視線を集中するのだが、この日は勘九郎の親獅子を見ていた時間が長かったようだ。

何とも研ぎ澄まされて切れっ切れの親獅子を堪能することになった。いずれ三人連獅子が踊られることになるのは間違いないが、それはもう少し先か。

《歌舞伎のトピックス一覧》
nice!(2)  コメント(0) 
共通テーマ:blog

元話§壽初春大歌舞伎夜の部~寿曽我~ [歌舞伎]

松も取れ、正月気分などすっかり消え失せた歌舞伎座夜の部に行ってきた。

2401_kabukiza_h_d86a23adb8bc68f1c7fa68e5e1170de6.jpg

舞踊『鶴亀』に始まって、休憩を3回挟んで『寿曽我対面』から『息子』そして『京鹿子娘道成寺』と一時間足らずの演目が並んだ、気楽な舞台。

『鶴亀』は福助、松緑親子、幸四郎親子の正月らしくたゆたうような一幕。

正月らしい演目『寿曽我対面』は扇雀の十郎、芝翫の五郎、梅玉の祐経、彌十郎の朝比奈、他。扇雀の存在感が薄く、もう少し柔らかみもほしかった。芝翫は悪くはないと感じたが、声は張り上げ過ぎていなかったか。そして、相変わらず梶原親子のパンクっぷりよ。

p375-tadamasa-father-and-son-5886.jpg

『息子』を観るのは2005年以来。その時も幸四郎が息子の金次郎を務める。白鸚の火の番、染五郎の捕吏を祖父から孫三代、三人だけの舞台。歌舞伎の舞台においては、喉を詰めるような白鸚の口跡は好きではない。だが、今回のような“ストレートプレイ”的な舞台の表現には合っているような気がするのだが。

とはいえ、前回観た時も思ったが、心理劇が正月の舞台にふさわしいのかと言うと……。

最後に『京鹿子娘道成寺』は、右近の花子。前半は殊勝に踊っていたように思われたが、後半に進んでいくにしたがって、あざとさが目に付いてきたと感じられた。品よく踊ってほしい踊りではないか。体育会的に見えるようではいけないのである。

終演は19時半過ぎで、21時前に帰宅。

《歌舞伎のトピックス一覧》
nice!(2)  コメント(0) 
共通テーマ:blog

余話§新春浅草歌舞伎第二部~歌昇~ [歌舞伎]

平日にもかかわらず、雷門から仲見世の奥が見通せない混雑を横目に、新春浅草歌舞伎第二部を観てきた。

歌昇の『熊谷陣屋』から、種之助が『流星』を踊り、最後に松也の『魚屋宗五郎』である。そして、この日のお年玉<年始ご挨拶>は隼人。階段のない舞台から身軽に客席に飛び降り、お客さんにインタビューした後も、軽々と舞台に飛び上がってみせたのは驚きである。

2024_asakusa_h.jpg

今年の浅草歌舞伎で松也、歌昇、巳之助、新悟、種之助、米吉、隼人の7名が“卒業”する、いわば卒業試験のような演目が並び、中でも歌昇の『熊谷陣屋』は最難関と言えるだろう。

が、まずまず大健闘と言っていい出来だったと感じた。当然ながら吉右衛門の熊谷を思い出し出し観ていくことになるのはしかたのないことで、歌昇にしても目指すのは吉右衛門の熊谷であるのは言うまでもない。そしてどこまで吉右衛門に迫れたか……ひとかたならぬ思い入れをこめての大熱演が繰り広げられた。

もちろん、吉右衛門の大きさは望むべくもなく、歌舞伎座の舞台にかけるのは時期尚早ではあれど、歌昇なりの熊谷次郎直実が描けたのはなかっただろうか。だが、先はまだまだ長い。

新悟の相模、莟玉の藤の方、巳之助の義経と堅実である。そしてもちろん、人間国宝歌六の弥陀六が圧倒的な存在感で一気に舞台が締まった。

二つ目『流星』は、種之助一人で流星を屈託なく踊るもの。1時間半の大作2本に挟まれた一服の清涼剤。

最後が松也の『魚屋宗五郎』である。メンバー9人勢揃いに加えて、ベテランの橘太郎と歌女之丞が脇を締める。酔ってからの松也は大柄のゆえ、舞台狭しと暴れまくって豪快といえば豪快か。

記憶に残るのは種之助か。第二部でも流星を踊り、宗五郎でも小奴三吉で存在感を示していたが、女形から赤っ面までと、器用な役者になってくれるだろう。

終演後は1階ロビーで行われていた、メンバー9人が並んで待つ能登地震義援金に協力。腹が減っていたので、雷門近くの蕎麦屋で天麩羅蕎麦と天丼、ビールに日本酒一合で帰宅。

《歌舞伎のトピックス一覧》
nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:blog