富話§豆腐の日常 [豆腐]
また少しばかり食事の量が減ったようだ。数年くらい前だったら食べられていた量が、三分の二ほどしか食べられないようになっている。
そんな中にあって“安定の存在”として豆腐がある。一年三百六十五日春夏秋冬、豆腐を切らしたことがない。
多少、食欲がない時でも、豆腐をどうにかすれば問題なく食べおおせるのはありがたく、我が命脈も豆腐に負うところ大なのだ。
普通に湯豆腐とか冷奴にして食べているが、湯豆腐を食べながら思い出すのは、明治維新の立役者の一人である長州藩出身の村田蔵六(大村益次郎)のエピソードである。
出汁昆布と豆腐を入れた鍋を七輪に置き、それを自分の足元に据えて、酒を呑むことが楽しみだったと聞いた。そうして“豆腐一丁、酒一合”の塩梅を律義に守っていたのだった。
ある日、西園寺公望が京に上って滞在していた蔵六から夕食に呼ばれた。逗留先の宿に向かうところで一人の公家さんに会って、行き先を告げると「村田さんのところに行っても、また湯豆腐でっしゃろ……」と、祇園に誘われたので“そっちのほうがいいな”と訪問をやめたのだ。
そんなその日、蔵六に恨みを抱く暴徒の襲撃を受けて致命傷を負い、一か月後にこの世を去ったのである。危ういところで難を逃れた西園寺は、その後90歳までと長寿をまっとうしたのである。
《日常のトピックス一覧》
そんな中にあって“安定の存在”として豆腐がある。一年三百六十五日春夏秋冬、豆腐を切らしたことがない。
多少、食欲がない時でも、豆腐をどうにかすれば問題なく食べおおせるのはありがたく、我が命脈も豆腐に負うところ大なのだ。
普通に湯豆腐とか冷奴にして食べているが、湯豆腐を食べながら思い出すのは、明治維新の立役者の一人である長州藩出身の村田蔵六(大村益次郎)のエピソードである。
出汁昆布と豆腐を入れた鍋を七輪に置き、それを自分の足元に据えて、酒を呑むことが楽しみだったと聞いた。そうして“豆腐一丁、酒一合”の塩梅を律義に守っていたのだった。
ある日、西園寺公望が京に上って滞在していた蔵六から夕食に呼ばれた。逗留先の宿に向かうところで一人の公家さんに会って、行き先を告げると「村田さんのところに行っても、また湯豆腐でっしゃろ……」と、祇園に誘われたので“そっちのほうがいいな”と訪問をやめたのだ。
そんなその日、蔵六に恨みを抱く暴徒の襲撃を受けて致命傷を負い、一か月後にこの世を去ったのである。危ういところで難を逃れた西園寺は、その後90歳までと長寿をまっとうしたのである。
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愉話§呑藝春秋[66]豆腐ラプソディ [豆腐]
[承前]
豆腐は我が家の常備食品と言ってもいいだろう。おおよそ冷蔵庫に在庫を切らしたことがない。特に冬のこの時期は、週に最低でも一度は、鍋を作って食べるので、言うならば夕食の主役でもある。
微かに大豆の味は感じられるが、おおよそ無味な豆腐であるがゆえに、いかようにもなってくれるのだ。単純至極な湯豆腐や冷奴に始まって、各種鍋は言うまでもなく、豆腐の出番は無限に存在しているのだ。
もちろん、麻婆豆腐もまた食卓に欠かせない豆腐の一品である。酒を呑むもよし、ご飯の上にたっぷりかけて“麻婆丼”にしてもうまい。まさに豆腐様様を堪能している。
そして豆腐から派生した油揚げや厚揚げも、我が身に欠かすことができない食材なのだ。これもまた単に炙り焼きにして葱や鰹節をのせて醤油でいただくだけだが、油揚げ1枚だけで日本酒一合は問題なく胃の腑へ収まるのだ。
油揚げや厚揚げはまた、鍋の種類に応じて適宜追加してもいて、これはもう“豆腐一族の合わせ技”とでも言えるだろう。大豆偉大なり! そして豆腐偉大なり!
最後に、時折口にできるだけだが、新潟は栃尾の油揚げについて一言述べておきたい……栃尾揚げを初めて食べたのは、神保町にあった新潟ラーメンの店で、夜は居酒屋となって新潟地酒を呑みつつの酒肴に栃尾揚げがあったのだ。厚い横腹を裂いて刻み葱をたっぷり押し込み、それで電子レンジで熱くしておろし生姜とラーメンのタレをかけてあるのだが、これがすこぶるうまくて、栃尾揚げ一丁で二合は呑めたのだ。
今も時折、デパートの出店で売られているのを買うのだが、何ともスペシャル仕様の豆腐製品である。
[続く]
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豆腐は我が家の常備食品と言ってもいいだろう。おおよそ冷蔵庫に在庫を切らしたことがない。特に冬のこの時期は、週に最低でも一度は、鍋を作って食べるので、言うならば夕食の主役でもある。
微かに大豆の味は感じられるが、おおよそ無味な豆腐であるがゆえに、いかようにもなってくれるのだ。単純至極な湯豆腐や冷奴に始まって、各種鍋は言うまでもなく、豆腐の出番は無限に存在しているのだ。
もちろん、麻婆豆腐もまた食卓に欠かせない豆腐の一品である。酒を呑むもよし、ご飯の上にたっぷりかけて“麻婆丼”にしてもうまい。まさに豆腐様様を堪能している。
そして豆腐から派生した油揚げや厚揚げも、我が身に欠かすことができない食材なのだ。これもまた単に炙り焼きにして葱や鰹節をのせて醤油でいただくだけだが、油揚げ1枚だけで日本酒一合は問題なく胃の腑へ収まるのだ。
油揚げや厚揚げはまた、鍋の種類に応じて適宜追加してもいて、これはもう“豆腐一族の合わせ技”とでも言えるだろう。大豆偉大なり! そして豆腐偉大なり!
最後に、時折口にできるだけだが、新潟は栃尾の油揚げについて一言述べておきたい……栃尾揚げを初めて食べたのは、神保町にあった新潟ラーメンの店で、夜は居酒屋となって新潟地酒を呑みつつの酒肴に栃尾揚げがあったのだ。厚い横腹を裂いて刻み葱をたっぷり押し込み、それで電子レンジで熱くしておろし生姜とラーメンのタレをかけてあるのだが、これがすこぶるうまくて、栃尾揚げ一丁で二合は呑めたのだ。
今も時折、デパートの出店で売られているのを買うのだが、何ともスペシャル仕様の豆腐製品である。
[続く]
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