能話§中村吉右衛門一周忌

あっという間に吉右衛門一周忌が来てしまった。

短い……20年ほどの歌舞伎鑑賞歴の自分にとって、最も記憶に残る立役が吉右衛門であると、ためらうことなく言うことができる。

↓『仮名手本忠臣蔵』の大星由良之助


個人的に選んだ大播磨吉右衛門三絶だが『熊谷陣屋』の熊谷次郎直実であり『仮名手本忠臣蔵』の大星由良之助、そして『梶原平三誉石切』の梶原平三と書いた後、ああ『楼門五三桐』の五右衛門もいれば『傾城反魂香』の絵師又平いるし『菅原伝授手習鑑』の松王丸、武部源蔵もいるではないかと……これはもう三絶どころではない。

そして今、歌舞伎役者で吉右衛門の後を襲う役者が存在しないことに愕然とする。花形を卒業して芯の役者になりつつある何人かの役者を見ても、吉右衛門のような時代物に長けた役者は見当たらず、残念ながら彼らの熟成を待つしかなさそうだ。

その可能性を持つ役者がいないわけではないと、ひそかに期待していたりはするが、その予想が当たるか外れるかがわかるのは、10年先のことになるであろう。

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