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愉話§呑藝春秋[71]灘コロンビア追憶 [ビール]

[承前]

二十世紀が終わる少し前、東京駅八重洲口の路地を入ったところに“灘コロンビア”という居酒屋があった。

店主だった新井さんが注ぐ生ビールが絶品だったので、客が引きも切らずという店だったのである。そんな彼が注ぐビールがどんなものか試してみたくて何度か通わせてもらったのである。

初めて入店してカウンターに陣取ったのだが、それが新井さんと彼のビールサーバーの眼の前で、何の衒いもなくニコニコと笑みを絶やさずタンブラーにビールを注いでいくのだ。



上のような動画が残っていたので貼っておく。残念ながら灘コロンビアの店ではなく、出張先で撮られたものだが、一つも無駄な動きがないとわかる。

そうして供されたビールを一口呑んで、心の底からうまいと思った。灘コロンビアのビールは、神保町のランチョンなどの店など限られた店で呑める、アサヒビールの“マルエフ”と呼ばれている料飲店専用銘柄だが、ほどよく癖のない苦味と抑えめの炭酸のおかげで、グラスに口をつけた瞬間、あっという間に喉の奥へと滑り込んでいったのだ。

そうしてビールを注ぐ間が空いたところで、新井さんが注いだばかりの細かいビールの泡に楊枝を立てると、しばらくは立ったまま動かず、その後徐々に沈んでいったのだが、それが新井さんの得意技だったのである。

こんな経験は、神保町ランチョンでも、灘コロンビアのサーバーを引き継いで営業を続けている新橋ビアライゼ98でも味わったことはない。まったくの別物だったのだ。

初訪問した灘コロンビアで、確か数杯を心地よく空けてケロリとして店を後にしたのだが、そんな新井さんが亡くなったのは1992年のこと……訪問するのが遅れていたら間に合わなかったかもしれないタイミングなのだった。

追記:灘コロンビアについての詳細な記述はこちらのリンクを参照のこと。
                               [続く]

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