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単話§尾瀬は独りで [尾瀬]

初めて尾瀬を訪れたのは中学の同級生と一緒だったが、それ以降、何人かと誘い合って尾瀬を歩いたことはない。

燧や至仏に登る以外は、比較的平易な道ばかりということと、何をいっても風景を愛でるために行くのだから、時間をかけてあちこちで道草を喰っていきたいので、山小屋でアルバイトをして以来、もっぱら一人で歩いている。

加えるならば、もう30年くらい膝の靭帯を傷めたことで、ガシガシ歩くことはできず、もしも連れ立って出かけるとしたら、何かしら迷惑をかけそうな気もするのだ。

それにやはり独り身が気楽である。誰に気を遣う必要もないし、山小屋に到着する時間さえきちんとしておけば、あとは勝手次第である。ではあるが、基本的なルートを外すようなことはせず、その範囲でのんびり歩くだけである。

KEN00758.JPG

独り歩きの余得といえば、上の写真のような遭遇があることで、これがもし数人のグループで歩いていたら、人間の話し声に気がついて姿を現すことは考えられないだろう。

鹿に遭遇したのは、尾瀬ヶ原から尾瀬沼に向かう段小屋坂の途中で、前後に人は歩いていなかったので、鹿も警戒心を緩めたのだと思う。鹿に遭遇した後、尾瀬沼の沼尻休憩所で前夜同宿だった女性グループ4人に、鹿の映像を見せたら「私ら賑やかに喋りながらだったから鹿が逃げたのかしら」と羨ましがられた……まあ、鹿だったからそれで済んだが、これが熊だったりしたら、まったく洒落にならない独り歩きである。

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